中国・上海万国博覧会 EXPO2010 欧州、アフリカ地域
盧浦大橋の高架道路が浦東会場の真ん中を南北に貫いていており、それより西が欧州、アフリカ、アメリカ地
域のパビリオンが立ち並ぶエリアです。世博軸から西へ延びる高架歩道を歩いて、盧浦大橋の高架道路の下を
くぐると、最初に見えるのが葡萄牙館です。それに続いて愛尓蘭館、意大利館、希臘館、西班牙館、という順
番に並んでいました。というのはウソですが、希臘館の南隣には氷島館が配置されていました。これは本当。
葡萄牙(Pu2-tao2-ya2)館
愛尓蘭(Ai4er3lan2)館
意大利(Yi4da4li4)館
希臘(Xi1la4)館
北京語ではxi-la。広東語ではhei-laap。どちらからもギリシャのギの字も出てきませんが、広東語の末尾の p
は入声で、日本人の耳にはほとんど聞き取れないですから、広東語発音を片仮名で書くと恐らく「ヘイラーッ」
となります。ギリシャ共和国の公式英語表記は "Hellenic Republic"でした。歴史用語の「ヘレニズム」と語
源は同じです。「ギリシャ」に広東語で希臘の字を当てた人物の正体は、マカオの宣教師でしょうか?
西班牙(Xi1-ban1-ya2)館
氷島(Bing1dao3)館
瑞士(Rui4shi4)館
北京語ではrui-shi。広東語ではseui-si。台湾(福建)語ではsui-su。なんと福建語が一番近い。確かに福建
省も華僑の故郷であり、広東人と並んで古くから海外貿易を営んでいましたが、なぜ福建人が欧州の内陸国の
存在を知って、広東人に先んじて漢字を当てたかは謎です。ちなみにロレックスは労力士。下積みで苦労して
いる相撲取りの事ではありません。
法国(Fa3guo2)館
「法」は法蘭西(Fa3lan2xi1)の略です。
塞尓維亜(Se4er3wei2ya4)館
摩納哥(Mo2na4ge1)館
波蘭(Bo1lan2)館
徳国(De2guo2)館
「徳」は徳意志(De2yi4zhi4)の略です。
愛沙尼亜(Ai4sha1ni2ya4)館
北京語は、ai-sha-ni-ya。広東語は、oi-sa-nei-a。上海語は、ee-so-nyi-ia。これは上海語です。
拉脱維亜(La1tuo1wei2ya4)館
北京語はla-tuo-wei-ya。広東語は、laai-tyut-wai-a。上海語はla-tek-vi-iaでした。これも上海語です。
土耳其(Tu3er3qi2)館
芬蘭(Fen1lan2)館
丹麦(Dan1mai4)館
瑞典(Rui4dian3)館
烏克蘭(Wu1ke4lan2)館
梛威(Nuo2wei4)館(梛の字の木偏は、正しくは手偏)
斯洛伐克(Si1luo4fa2ke4)館
捷克(Jie2ke4)館
匈牙利(Xiong1ya2li4)館
「匈牙利」の北京語音は、xiong-ya-li、広東語音は、hung-nga-leiで、広東語の音で当てたのしょう。また、
ハンガリー人がフン族の末裔であるという俗説、およびフン族=匈奴説から「匈」の字を当てた意訳でもあり
ます。新聞の見出しではハンガリー人は略して「匈人」なんて書かれるんでしょうか?
白俄羅斯(Bai2e2luo2si1)館
「俄羅斯」はロシアの事ですので、白俄羅斯は白ロシア(ベラルーシ)の事です。ところで、何かの雑誌の記
事で、「白ロシア人」と「白系ロシア人」を混同していると思える記者の文章を読んだ事があります。白ロシ
ア人とは白ロシア国の国民の意味で、別名ベラルーシ人の事です。一方の白系ロシア人は、ロシア革命で共産
党側の人間を赤系ロシア人と言うのに対して、反革命側の人々を比喩としてそう呼んでいます。
例を挙げると、日本プロ野球の黎明期にスタルヒンという大投手がいますが、彼は幼少時に一家でロシア革命
から逃れて日本に亡命して来たので、スタルヒン投手は「白系ロシア人」とです。一方、ソビエト時代の外相
のグロムイコ氏(後にソビエト最高会議幹部会議長)はベラルーシ出身なので、こちらは白ロシア人です。グ
ロムイコ氏を「白系ロシア人」と紹介すると大変な間違いとなります。
波黒(Bo1hei1)館
波黒は、波斯尼亜・黒塞哥維那(Bo1si1ni2ya4 Hei1se4ge1wei2na1)の略です。
英国(Ying1guo2)館
「英」は英格蘭(Ying1ge2lan2)の略です。
荷蘭(He2lan2)館
オランダの俗称 Holland の音訳でしょう。
盧森堡(Lu2sen1bao3)大公国館
「ブルク」はドイツ語で城の意味であり、砦を意味する「堡」の字を当てたのは意訳でもあります。
奥地利(Ao4di4li4)館
羅馬尼亜(Luo2ma3ni2ya4)館
克羅地亜(Ke4luo2di4)館
立陶宛(Li4tao2wan3)館
同じバルト三国のエストニアとラトビアは上海語でしたが、リトアニア(英語表記Lithuania)も調べてみます。
北京語、Li-tao-wan。上海語、liek-ddoo-ueu。台湾(福建)語、lip-to-oan。広東語、laap-tou-yun。
どれも五十歩百歩ですが、少なくとも上海語で当てたのではないとは言えるでしょう。英語表記の"Lithuan"の
部分に当てたとしたら、福建語が一番近いような気がします。三国は第一次大戦後の1918年に帝政ロシアから
独立し、1922年には揃って国際連盟に加盟したので、国際都市上海ならば新聞で報じられる事もあったでしょ
う。しかし、エストニアとラトビアは上海語の発音で漢字を当て、リトアニアは福建語で当てるというのも不
自然です。
外国の国名に漢字を当てるのに「方言」で当てるのは、その外国に対して礼を失する気がします。当てるなら
格調の高い言葉で当てるべきでしょう。どこの国でも格調の高い言葉と言えば古典語です。新聞社で外国の国
名に漢字を当てる作業を任される人物となれば、それは中国語や漢字の知識において学者クラスの人物でしょ
う。ならば、古典中国語の発音にも精通していても不思議ではありません。そして、中国大陸においても方言
周圏論が成立しているならば、地方の方言は古典語の特長を保存しているので、外国語を古典語発音で当てた
漢字が、結果的に現代上海語や現代広東語と似ているという事もあり得ます。だとしたら、私はこれまでまっ
たく無駄な作業をして来た事になります。
俄羅斯(E2luo2si1)館
北京語の「e」はエとウの間の曖昧な発音でオに聞こえる場合もあり、俄羅斯の発音を片仮名で表現すると
「オー・ルオ・スー」となります。日本でも江戸時代末期にはロシアの事を「オロシャ」と呼んでいました。
利比亜(Li4bi3ya4)館
尼日利亜(Ni2ri4li4ya4)館
安哥拉(An1ge1la1)館
阿尓及利亜(A1er3ji2li4ya4)館
突尼斯(Tu1ni2si1)館
チュニジアの国名ではなくて、その首都のチュニスの音を当てているようです。
挨及(Ai1ji2)館
北京語音は、ai-ji。何故これがエジプトになるのか不思議でしたが、ウィキペディアによるとエジプトの名
の由来は、古代ギリシア語のアイギュプトス(Aigyptos)だそうです。その「Aig」の部分に「挨及」を当てた
と推測します。
南非(nan2fei1)館
中国語でアフリカは「非州」と書きます。だから南アは「南非」。
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